§09 流れを見渡せ!
「たくさん書く」(§05)、
楽勝ぉ〜
「フレーズを増やそう」(§08)、
かなりいい感じ。
頑張ったあなた、
ステキな文章をすらすら
書けるようになりました。
そして、一つの変化が…
あら不思議。知らぬ間に、
文章の良し悪しがわかるように
なっていました。
「すごくいい!」
「これじゃダメ」
批評じゃなく、偉ぶるんでもなく、
自然に、感じたままなんだけど、
文章の良し悪しがわかります。
同時に、
書いた人の気持ちが見えるように
なりました。
あなたは、その文章に込められた
「伝える」工夫に気が回るように
なったのです。
それは書く人の意図が判る!に
通じています。
平たく言うと、
著者の狙い、あなたにバレバレ
そんな力を持ったあなた、
読書にも変化が
なんと! 難しい本も
すらすら読めるように!
すごいでしょ。
ぜひそうなってください。
では早速ご説明を!
まずは「文章の流れ」の話から。
文章には 流れがあります
どんな文章にも、流れがあります。
あの短い俳句にも。
目には青葉 山ほととぎす 初鰹
山口素堂さん
この有名な俳句の流れは…
青葉にウットリで始まり、
次に、山で鳴くホトトギスの声を
聴いて、最後は食欲。「初鰹、
おいしい~」で落ち着く流れ。
では、次の句の流れは?
分け入っても分け入っても青い山
種田山頭火さん
道なき道を奥へ。これが始まり。
「大変だぁ」が途中。終わりは
目の前に立つ山々。遠いぞぉ!
で全体がわかる流れになって
います。
このように、どんな短い文章にも
流れがあります。
その流れには必ず、作者の意図が
隠れています。
起承転結 あの流れには
「起承転結」という言葉を聞いた
ことがありますか。
作文を書くなら「起承転結」で!
と評判の作文テクですが、
実はこれ、文章の流れの型です。
起、承、転、結。
それぞれの漢字には以下のような
役割があります。
★起
「こんな話が始まるよ~」と
軽く予告(読者ウンウンとなる)
★承
「話の枠を広げてみるね!」と
テーマを発表(読者、盛り上がる)
★転
「別の角度から眺め」て虚を突き
(読者、そうなんだぁ~と思う)
★結
「話のツボ、わかった~」で
スッキリ(読者、つい納得!)
こんな狙いが隠されているんです。
ですから…
起承転結は言うのです。(擬人化)
「わたしの薦める順番、起を書いて
承、承を書いて転、転を書いて
最後に結を書けば良い文になる」
もうお分かりですね。
起承転結には意図があります。
そして…
その流れは実に緻密に計算されて
います。とくに後半の転と決の間。
そのつなぎ方に効果的な仕掛けが…
もう一度、転と結に注目ください。
★転 でドキッとした読者の心を
★結 で落ち着かせて…
そんな流れ(壁ドン系)を作って、
「なるほどねぇ~」「賢いねぇ~」
と思わせる。そんな密かな仕掛けを
わたしたちは、起承転結と呼んで
いるのです。
この最後の華々しさが試験や受験で
受けるのでしょうか。作文教室や
小論文の指導では、この起承転結が
強く推奨されています。
しかし起承転結は流れの1つに過ぎ
ません。全てではないし、万能でも
ないのです。実は弱点もあって…。
いい機会なので、少し説明します。
起承転結の弱点
起承転結は、
長々と書いて最後に結論へ辿り着く
「流れ」なので「何を言いたいの!
早く言って」には不向きなのです。
たとえば、★起に
「海外旅行に行くと不思議と蕎麦が
食べたくなります。」を置いて、
「流れ」を始めたとします。
しかし、それは結論ではないので、
読む側は肝心な箇所が出てくるまで
待つしかなく、イラ。その前に、イ
ラ。承や転が、イラ。入ってるわけ
で、イライラ。待っているこちらが
イライラ。急いでいるときはイラ。
とくに、イラ。妙に腹が立ってくる
イライラ。のであります。イラ。
となってしまい、
(大阪のおばちゃんだったら)
「で、なんやねん」
「はよ、言い」
「話、長いわぁ~」
「あんた、校長先生?」
になってしまいます。
「書く」を職業にしている人たちは
この特質をよく知っています。
ですから起承転結は新聞記事で
使いません 。
ふだん意識しないと思いますけど、
新聞記事という文章の流れは
まず見出し 例 ◯◯逮捕
(何が?を一目で!)
続いて前文
例 ◯日◯時、◯◯容疑で◯◯を
警視庁が逮捕。
(最初の一文で要約する)
そのあとに詳細
例 被害にあった◯さんは…
(補足説明が始まる)
になっています。
「まず結論を!」を重んじるので
起承転結は邪魔くさいだけ。
ねっ、すごいでしょ!
文章の流れって意外なほど個性的。
流れに意図あり、仕掛けあり。
書き手はそれを承知で、もっとも
適した流れを選んでいます。
「えぇ?」と思うかもしれませんが
本当の話。
作文、感想文、エッセイ、コラム、
小説、物語、…。
人間が創作する全ての文章には
意図された流れがあるのです。
映画や落語にも 流れがあります
黒澤明監督の映画『七人の侍』は
状況説明(農民ピンチ!)→
成り行き(侍&農民vs.野武士)→
決着(侍&農民の勝利)→
解釈(真の勝者は農民)→
エンディング
な「流れ」で紡がれていきます。
ラストシーンまでドキドキしながら
夢中になって、最後の最後の最後に
「そういう事なのね」を確認。
観客たちは「うんうん」と納得して
映画館を出ていきます。
同じ映画でもアメリカン・ニュー・
シネマと呼ばれた作品は違います。
たとえば『真夜中のカゥボーイ』は
状況説明(主人公、NewYorkへ)→
成り行き(彼女と出会い)→
成り行き(彼と出会い)→
成り行き(いろいろあって)→
エンディング
な「流れ」になっています。
『七人の侍』のような決着や解釈は
無し。「え~、終わり?」のまま、
観客は映画館を出ます。この余韻を
狙った「流れ」なんです。
(end credit で流れる Toots Thiel-
emans さんのハーモニカが象徴的。
ぜひ聴いてみてください)
噺家・立川志の輔さんの創作落語は
「流れ」的に『七人の侍』に近い。
代表作「みどりの窓口」は…
状況説明(困った客A)→
状況説明(困った客B)→
状況説明(困った客C)→
解釈(落ち)
な「流れ」で構成されています。
理屈(:可笑しい理由)を観客に
きちんと理解させ納得させてから
幕を下ろします。
お分かりいただけたでしょうか。
文章や作品を形づくる流れ。それは
作者の意図そのものなのです。
ですから
文章の「流れ」が読める!
=作者の意図が読める!
できるようになると
読書もスムーズ。
この本の「流れ」は◯◯みたい。
だとしたら、この先は…。
ほら、やっぱりそうだった。
「おまえの考える筋書きなんて、
お見通しだ!」になっちゃいます。
流れ、見抜いてください。
文章がすらすら書けるあなたは
簡単にできると思います。
(たくさん書く練習は→§05)
流れを見渡せ!というお話でした。
(おしまい)
なぜか大きな心を感じます。
A.ヘミングウェイの小説に
そんな作品がありました。
(静岡県の大井川。雄大です)